音楽編

【このまとめは物語のネタバレを多く含んでいます。ご一読される場合はご注意ください】

『俺の屍を越えてゆけ2』の発売から3カ月がたった2014年10月某日、キャラデザインと楽曲についてのインタビューを行った。参加していただいたのは、キャラデザインを担当した佐嶋真実さんと、楽曲を担当した樹原孝之介氏。そこにゲームデザイナーの桝田省治氏を加えて、どのようにキャラが、楽曲が誕生したのかをお話しいただいた。

――続きまして、音楽についてうかがおうと思います。桝田さんから樹原さんには、どのような経緯で依頼がいったのでしょうか?

樹原:中学生くらいのときに、桝田さんにデモテープを送っていたんです。それで、いつか何か一緒にできればいいねという話はしていたんです。そしてPSP版を作るときに、アレンジをしてみないかというお話になりました。
桝田:昼子戦だよね?
樹原:昼子戦そのものの曲は母(樹原涼子さん)が作ったんですけど、コンセプトを聞いてアレンジをしていきました。
桝田:あの曲って、全部でいくつあるんだっけ?
樹原:全部で4つです。
桝田:マップで流れている曲と、戦闘中の3つがあるのか。
樹原:そうです。桝田さんがうちに打ち合わせに来たときに、母がもとになる曲をピアノで弾いて 、それいいじゃんという話になりました。
桝田:昼子戦の曲は、熊本でできたのを思い出した! 涼子さんと飲みに行こうという話をしていたんだけど、アルファにもう1件だけ打ち合わせをさせてくれと言われて、それを待っている間にささっと書いた曲。楽器なくても、作曲ってできるんだね。
樹原:そうなんですよ、意外にできるんです(笑)。それでPSP版でやらせてもらったアレンジを評価していただけて、今回作曲からさせてもらえることになりました。最初は竜宮渡りの曲を作って、桝田さんに渡しました。そしたら「いいじゃん」と言っていただいて、全部の曲の発注リストをもらったんです。

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▲昼子戦。樹原孝之介氏が、『俺屍』で最初にかかわった曲となる。

――最初から、すべての曲を作ってということではなかったんですね。

樹原:はい、最初はテストのようなものがありました。
桝田:僕は、彼が涼子さんのライブに乱入したりしているのも見て実力を知っていた。最近はこんなことをやっているんだと、様子を見ていたかな。
樹原:母のコンサートで曲を演奏したこともありましたね。
桝田:作品全部を任されることにプレッシャーはあったの?
樹原:作曲には特にプレッシャーはありませんでしたが、納期的なプレッシャーはありましたね(笑)。早く作らなければと。
桝田:僕も涼子さんも力量的にできるだろうと思っていたけど、なにぶん当時大学生だったので、周囲を納得させるために何曲か作って、「ほらほらできるでしょ」というのをアルファやSCEに聴かせる必要があったんだよ。

――中学生のときにデモテープを送ったというお話ですが、そんな若いころから作曲をしていたんですか?

樹原:幼稚園のときの鼻歌を、母に書き留めてもらったりというのはあるんですが、自分で曲が書けるようになったのは小学校4年生くらいのときです。4年生のときに夏休みの自由研究で何もすることがなくて作曲したのが、ちゃんとした曲を作った一番初めですね。そのころは『俺屍』や『リンダキューブ』などの曲を、電子ピアノでマネして弾いて録音していました。そこでアレンジや打ち込みの基礎を覚えていきました。

――そのころから、ゲームの曲をやりたいと?

樹原:そこまでは考えていませんでした。ただ浮かんでくる音楽を、出していくという感じでしたね。中学生の頃は、歌詞をつけて歌いたいことも特になかったので音だけを作っていましたね。

――本作の曲を作るにあたって、ゲームのBGMを意識しましたか、それとも曲自体の世界観などインスピレーションに沿って作りましたか?

桝田:『俺屍』をやり込んでいる人ですからね。作品の世界観という意味では心配はしていなかったよ。
樹原:昔桝田さんが何かで、「ゲームの曲がよすぎると、そちらにばかり気持ちがいってしまう」と言っていたのを読んだことがあるんです。それが印象に残っていたので、さりげなく耳に入るようなアレンジにしようと思っていました。でもインスピレーションがないと曲は作れないので、思いついたものをそういった方向で料理していきました。

――前作では母親の樹原涼子さんが楽曲を担当されていましたが、思うことはありましたか?

樹原:そうですね。『俺屍』に限らず母の曲をよく知っている ので、母にできて自分にできないことと、自分にできて母にできないことがわかっています。影響を受けたものもありますが、自分にできることをちゃんとやっていこうと思いました。真似しようとか、プレッシャーになるという思いはありませんでした。
桝田:改めて涼子さんの曲を聞いてどう感じた?
樹原:当時のアレンジを聴いて、楽器の強弱や、和音の鳴らし方の勉強になりましたね。いろんな要素がケミストリー(化学反応。転じて、相性によってプラスαが生じること)を生むというのもわかりました。
桝田:そうか、PS版は編曲が別の人だった。でも本作では、作曲も編曲も孝之介くんが担当しているんだよね。おう、すごいじゃないか。今気がついた(笑)。作曲家と編曲家って、脚本家と演出家くらい違うね。
樹原:ですね。大雑把になんですが、作曲家は森を見て、編曲家は木を見る感じです。編曲をするときは、本当に細部まで気を配らなければいけません。

――樹原さんが、苦労されるのはどちらの作業ですか?

樹原:時間がかかるのは、編曲の方ですね。曲も、思い付かないときはたいへんですけど(笑)。作曲は、曲が思い浮かんだときにすぐに記録できるようにしないといけないので。ボイスメモに入れることもありますが、基本的にはすぐに五線譜に書くようにしています。
桝田:電車のなかで思い浮かぶこともあるの?
樹原:電車はないですけど、飛行機のなかではありますね。電車に乗っているときは、イヤホンで曲をチェックしていることが多いです。
桝田:僕のイメージでは、作曲をするときはピアノのそばで、動物園のクマや虎のようにぐるぐる動き回って考えるんだと思ってた (笑)。
樹原:そういうこともありますね。ソファーにバタンと倒れたときに、思い浮かぶこともありますし。思い浮かんで1番困ったのは、お風呂に入っているときです。そのときは、メモ用紙持ってきてとお願いして急いで書きました(笑)。七色温泉の曲は、全パートお風呂で思い浮かびました。
桝田:近しい場面にいると思い浮かぶものなのかもね。
樹原:そういう場面もありますね。だから、だいたい夏から秋くらいに作曲したので、冬の曲は特に注意しました。

――音楽とイラストという違いはありますが、佐嶋さんもインスピレーションがポンと浮かぶ場面などありますか?

佐嶋:どちらかといえば、私は設定やオーダーをもとに理詰めで作っていくタイプですね。
桝田:僕のところには、ある程度デザインがまとまったラフとして届くけど、その前はどんな感じで描いているの?
佐嶋:描いては捨て、描いては捨てですよ。
桝田:何本も線を描いて、そのなかからメインの線を決めていく感じ? それとも、思い浮かんだパーツをとりあえず組み立てていく?
佐嶋:部品を書くときもありますね。気を付けているのは、なるべく棒立ちのポーズで描かないようにすることです。動いてカッコ悪い服になるとダメですからね。
樹原:作曲でも、理詰めで描くことがあります。祭りの曲は、いろんな民謡を取り入れているんです。各季節で使う曲を決めて、合間に主題歌「WILL」を入れて、すべてに共通する祭りのメロディーを決めて、組み立てていきました。ほかにも最初に四季にアレンジできるものを考えて、そこから編曲したものもあります。
桝田:アレンジがあることを前提にしている曲もあるんだ。
樹原:どうやっても、アレンジできないメロディーはありますからね。
桝田:季節感はどうやって出すの?
樹原:何が春っぽいかや秋っぽいなどの感覚は、人によって違うので難しかったです。拍子とかフレーズなどが、どうすれば季節感が出るかを意識して作りました。

――完成したものは桝田さんに確認をもらうと思うのですが、その前に誰かに聴いてもらうということもあったのでしょうか?

樹原:ありますね。例えばあえてぶつかった音を使うときなどは、おかしく聴こえていないか監修をしている母に確認してもらいました。直しのオーダーが来たときに、2パターン作って聴いてもらえるのも助かりましたね。

――桝田さんからの直しのオーダーは、どのような内容だったんでしょうか?

桝田:僕はあんまり細かいことはいっていないと思うよ。ただ、冬はもっと寒そうな感じとかお願いしたかな。''
樹原:最初のころは、たくさんオーダーがありましたね。焔獄道などは、何度か練り直しましたね。熱でチリチリした感じを出したら、聴いててとても焦ると桝田さんに言われました。プレイヤーがメニューを出しているときに、落ち着かなくなるからもうちょっと抑えてほしいと。
桝田:すごいじゃん、ちゃんと全体のこと考えて指示を出しているよ、僕(笑)。確かに曲の単体としてだけじゃなく、ユーザーがどんな状況に置かれているかを考えないといけないからね。

――さすがですね(笑)。ほかに印象的なオーダーはありましたか?

樹原:すごく抽象的なものもありました。竜宮渡りの曲を直すときに、もうちょっと青い何かを叩いているような音が欲しいと言われました。何かはイメージできませんでしたが、うまくできたとは思います(笑)。
桝田:何だろう、青の洞窟のゆらゆら感かな。
樹原:青と透明感という指示だったので、たぶんそれですね。桝田さんの指示は、音楽的なことは少なかったですね。
桝田:確かにコーラスについても、個人的な趣味で修正してほしいなどのオーダーしたかも(笑)。
樹原:落とし込みやすいような指示が多かったので、アレンジや修正はしやすかったですね。あと話し合いのなかで、曲が入れ替わったこともありますね。最初は鬼頭と晴明のテーマが逆だったんですよ。でアレンジなどを考えるなかで、逆のほうがいいねということになり、今の形になりました。
桝田:そんなこともあったね。ダンジョン曲はどうなの?
樹原:前作はダンジョンごとに属性が決まっているのですが、今回は景色と構造に合うようにというオーダーしかないダンジョンがあって苦労しました。逆に、焔獄道などは炎に寄せて作れるのでやりやすかったですね。あとは天衝くどんなら上っていくし、根の子参りなら降りていくシーンと対応させた感じですね。

――キャラクターのテーマやダンジョンの曲など、すべてに共通するコンセプトというのはあるのでしょうか?

樹原:桝田さんからは、楽器かメロディーのどちらかがオリエンタルな感じでと頂いていて、それを忘れないように作りました。どちらかというとバリエーションを出すことを意識していたので、一貫してというものはないかもしれません。サウンドは1人で作っているので、どうしても手触りは似てきます。統一感というのはこだわらなくていいかなと思っていました。どこまで和風にこだわるかという部分ですが、前作はジャズなどの要素も入っていたのに作品らしさを保っていましたよね。そのため、その幅の広さも生かしていこうと思いました。
桝田:メインテーマ「WILL」はどう?
樹原:メインテーマは、かなり前に書いた曲です。『俺屍』のテーマにするならこの曲だなと思ったので、Bメロだけ変えて使用しています。Bメロは和風に寄せて、いろんなシーンに使えるアレンジがしやすいものにしています。この曲は和楽器も洋楽器も両方使っているんですが、和風の和音を中心に使っているので、『俺屍』のテーマに合うかなと考えました。
桝田:この曲、涼子さんのコーラスっていくつくらい入っているの?
樹原:1番多いところは、メインボーカルのほかに3つくらいですね。入れ替わり立ち代わりのように聞こえるので、たくさんいるように聴こえる部分もあるかもしれませんね。「WILL」のアレンジはほぼ最後にやったんですけど、ほかのいろんな要素を見たときに複雑なものが多かったので、その方向性を生かしてまとめました。

――桝田さんのほうから、要望はありましたか?

樹原:こういう感じで参考にしてほしいというサンプルを教えてもらって、それは念頭に入れていました。あと、できるだけいろいろな声が出てきてほしいというオーダーもありましたね。
桝田:最初は男女のコーラスにしようという話だったんだよね。
樹原:はい。でも男性コーラスを誰に歌わせるというのも特になかったので、今の形に落ち着きました。

――『俺屍』は前作のメインテーマ「花」のインパクトが強く残っているユーザーの方は多いと思います。そのプレッシャーや乗り越えようという思いはありましたか?

樹原:そうですね。歌詞も「花」で言っていることと「WILL」で言っていることは共通しつつも、自分の伝えたい部分はちゃんと伝わるようにしています。逆に「花」で出てくる発想を、わかりやすく取り入れたりしました。
桝田:作詞には、僕もかかわっているとちゃんと言ってね(笑)。
樹原:作詞の素材にしたいのでヒントになるキーワードをくださいと桝田さんにお願いしたら、情景描写などをたくさん出してくださいました。それをいくつか取り入れて、歌詞を書いたりしました(笑)。

――作詞はどちらかといえば、理詰めで作っていった感じですか?
桝田:曲の方が、最初に完成していたよね。
樹原:ですね。曲をずっと聞きながら、喫茶店でずっと作詞をしていました。 ユーザーのゲームの世界をうまくつなげる存在に音楽はなれるんじゃないかと思って、それを念頭に言葉選びをしました。「一族の悲願と、あなたの願いは何ですか」という部分が、うまくリンクするようにしようと思って理詰めで歌詞を作っていきました。
桝田:会心のデキの曲ってある?
樹原:曲ごとにそれぞれ好きな部分が違うので難しいです。街の曲は、アレンジと曲のアイデアのマッチの仕方が自分のなかでいいなと思っています。まあ、全部好きなんですけどね(笑)。あと儀式の曲がうまいこと前作と共通点を残しつつ、「WILL」のアレンジも入れられたので、うまくできたかなと思います。
桝田:そういえば、SCEで掛け声を収録したじゃない。あれは、もともと何を入れるか決めて収録していたの?
樹原:先に決めていました。同じ掛け声でも、祭りと百鬼祭りでは同じ場所に掛け声が入っているんですが、速さが違うんですよね。それぞれのバージョンを収録しました。
桝田:なるほどね。掛け声は、女の子の声がかなり前に出ているよね。
樹原:男性の声は迫力が出る感じになってしまうので、華やかにしたいときは女性の声を前に出しています。

――桝田さんのなかで、お気に入りの曲はありますか?

桝田:僕はテーマ曲や夜鳥子のテーマを聴いたときに、いいなとは思ったけどすげえなってところまではいかなかった。それが何度も聴いているうちに、じわじわと良さがわかってきたんだよね。
樹原:ありがとうございます。BGMは、そういうほうがいいかなと思いまして。目立ちすぎないけど印象に残るというのを狙いました。
桝田:お風呂のなかであるBGMを鼻歌歌っている自分に気がついて、いい曲だなと思ったよ。
樹原:長く聴きがいがあるように、いろいろ仕掛けも施しています。

――最後に作品全体について聞いていこうと思います。樹原さんが、『2』をプレイされてみて感想はいかがでしたか?

樹原:個人的な感想なのですが、「WILL」を書こうと思ったきっかけが花火だったんです。それで作中のある花火の出てくる印象的なシーンに使われていて、とても感動しました。使われることは知っていたんですが、すごくグっときました。

――プレイスタイルや、どんな職業を選んだなとありますか?

樹原:今回は指南書が集めやすいので、踊り屋など列攻撃ができる職と、攻撃力の高い拳法家や槍使いで始めました。そのあと、壊し屋などに手を出す感じですね。プレイスタイルはあまり先へ先へと行かず、宝箱や術などある程度集めていますね。あと百鬼祭りは、行く必要がなくなったあとも必ず行くようにしています。

――最後の質問になりますが、本作を楽しんでいる方、これからプレイする方に向けて佐嶋さんと樹原さんからメッセージをお願いします。

樹原:さっき話した仕掛けなどを探しながら聴いていただくと、おもしろいかもしれません。またゲームを終えるときは、ぜひ「WILL」を聴いてもらいたいですね。この作品はいろいろ考えさせてくれるゲームでもあるので、みなさんにとってそれぞれの「悲願」がどんなことなのか想像しながら遊ぶとより楽しいかもしれません。
佐嶋:交神の儀では、好みじゃないゴッツイ神様とかもいると思いますが、食わず嫌いせずに試してみてください(笑)。セリフを聞いたら、印象が変わることもあるかもしれませんよ。

――ありがとうございました。

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